株式会社ALT 小川芳裕さん
穏やかな人柄とはギャップのある行動力・決断力を持ち、慶應大SFC在学中に起業に関わったベンチャー、株式会社ALTで現在取締役として活躍中の小川さん。一旦は大企業に就職しながらもベンチャーに戻ったその訳は?安定することより新しいことを求め続ける熱いものを秘めた小川さんに迫ります。
■「新しいこと」がしたい
―小川さんは慶應義塾大学の総合政策学部のOBでいらっしゃいますね?
はい。高校も慶應の内部で志木高出身です。新しくできた学部ということで、一時期「すごい」と流行ったこともあったのですが、当時は内部進学でSFC(湘南藤沢キャンパス)に進むことは珍しかったです。それでも私自身「新しいことをやってみたい」と思っていたことと、高校時代は理系選択だったので、理工学部もいろいろ調べていたのですが、このまま理系に行くとその中で自分は埋没してしまうと思い、この学部を選びました。ちょうどITという言葉が出てきて、私が高校入学の時にはYahoo!BBができ、私の周りにも高校なのにノートパソコンを持ち込んだりするすごい奴がでてきていたので、ITって面白いかなと思いSFCがいいなと思いました。
―大学生活では何をなさっていましたか?
SFCって日吉や三田キャンパスに比べて閉鎖的な空間で、日吉キャンパスなどと比べると外部との関わりが薄いんです。その意味で、私はインカレで毎年ビジネスコンテストを主催している「KING」というサークルに入りました。その頃はビジネスを頑張りたいという気はなかったのですが、IT系に興味あったので面白そうだと思いましたし、私は高校の時から慶應一色だったので、いろんな人がいるからという理由で入りました。
―「KING」ではどのようなことをしていたのですか?
活動は2年生の夏まででしたが、私は財務というお金関係の仕事をやりました。総予算で600万円くらい。参加者の宿泊費や、パンフレット、社会人の交通費などですが、それをまとめて管理していました。これは私にとって良い成功体験ですね。
サークルには自己主張が多い人が多かったですね。自己主張が激しい人たちばかりでなく、内に秘めている人など、いろいろいたので、そんなにまとまっていなかったかもしれません。いいものをつくりたいとか、参加してくれた人に満足してもらいたいとか、そういった面ではすごく一致していました。私がいた頃は川西(現株式会社ALT社長川西康之さん)にクーデターを起こしたりもしましたね。それも今では「まあ、そんなこともあったね。」と、良い思い出になっています。
―そのサークル活動に力を入れていたのですね。
そうですね。だからこそ2年の夏が終わって、ふと、「俺、SFCで何もしてないじゃん。」と思ったんです。SFCではゼミに入らなくても良いし、卒業論文も書かなくても卒業できてしまう。でもそれではさみしいなと思いました。それで3年生になって、SFC一厳しいと言われている花田研究会というゼミに入りました。
―そのゼミではどのような研究を?
人事戦略などの人事に関することです。よく寝袋を持って学校に泊まり込む「残留」をしていました。7月は残留届が20枚くらい溜まるなんてこともありました。ゼミの中では、企業に入った人々の人事経路、福利厚生やキャリアプランなどを噛み砕いて説明するような本を作るプロジェクトに参加しました。そこで大企業ってこんな風に動いているのだな、人事の人ってこんなことを考えているのだなと実感することができました。学生の頃は人事の人とは就職活動でしか接点がないけれど、プログラムを通して考え方を知ることができて、良い経験でしたね。企業の中でも人事は出世コースの花形ですけど、すごく面白いなと思いました。
■ビジネス開始→大企業就職→ベンチャー
―株式会社ALTに関わるようになったきっかけは何ですか?
KINGで当時代表をしていた川西に「一緒に起業ごっこしよう」と誘われて、大学2年の冬あたりから金田さんというKINGを作った方が支援して下さり、小さいオープンオフィスみたいなものを3人で作りました。その頃はYahoo!BBで個人情報の漏えいが問題になっていたので、個人情報保護や漏洩事件ファイルなどを作ってレポートを書き、それをインターネット上で販売していました。そこからプライバシーマーケティングやPマーク取得のためのコンサルティングをし始めました。自分たちで本を買い、一からコンサルティングメニューを考えたり、社内文書の雛型をつくったり…それを大学4年の夏までやっていました。それが世の中の波に乗って、結果儲かりましたね。それでそのお金で川西は株式会社ALTを立ち上げました。私はそのまま川西と一緒にやるという選択肢もあったのですが、就職活動をして、企業に就職しました。
―成功していたのに、なぜ就職は別にしたのですか?
大学のゼミで人事の勉強をしていた関係で、ベンチャー万歳とか、ベンチャーが絶対いいという執着はなかったのです。大企業も面白いと思うし、社会人ってすごいなって思っていて。KINGをやっている中で、協賛してくれる企業を見ていて、学生のやることを助けてくれる企業は経験上大体、学生を使おうと企んでいる悪い所か、本当に協力的ないい所なのだけれど、いい所というのはすごく仕事ができる人がいて、近くで見ていてすごいと思っていました。そういう人たちをもっと近くで見てみたいと思っていたのです。それでベンチャーとは対極の考え方だけれど、某大企業に就職しました。
―なるほど。その会社ではどんな仕事を?
人事がやりたいと言っていたので、人事を。その中でも、会社グループ全体の研修の企画・運営を行っておりました。それはNTTグループのように、グループの中で人事をやりましょうというものなのですが。例えばグループという大きな枠の中で人事を考えたり、グループとして理想の人材像を定義し、そういった人を育てて行き、大きな組織になってもセクショナリズムに囚われず会社として一体感を持っていけるようにする。それがグループ人事の考え方です。私は新入社員ながら研修担当になり、新入社員や、課長向けの研修などをやっていました。そして、入社して1年ほどたった時に株式会社ALTに戻りました。
戻った理由は二つあって、一つ目は川西(写真左)から「戻って来い」って強く言われていたこと。二つ目は、私の中でベンチャーの人は「大企業はだめだ」という論調をとっている人が多いイメージがあり、それに疑問をもっていました。大企業でも楽しく働けるし、大きな部分の一部でしかないけれど、やりがいも自分の意識次第である程度もって楽しく働けます。でも、30歳ぐらいの先輩などを見ていて、自分が30歳でこれだとちょっと寂しいなと思いました。それに、務めていたのは8か月間だったけれど、その中で私なりに結果というか、いろいろと印象付けができていました。いつでも「もう一回やらせてください」と言えば戻らせてくれるような関係を築けていたのです。そのような感じで、もう少し人生のレベルを上げようと思ったのです。イージーモードより、もう少しハードモードでやったほうが面白いし、今のままでは5年後や10年後に自分がどうしているかというのが、はっきり見えてしまっていました。それ以外に大きな不満があったわけじゃないのです。ただ単に、これは10年後でも出来る、今はもっと若いうちにしかできないことをしたいと思いました。私自身、人間的に何か提示されたら乗ってしまうところもあるので、「そっちの方が人生面白くなりそうだ」と。だから「戻ってきてくれ」と言われた時、それは自分にとってある種のイベントであると同時に、自分が評価されているという事であって、そこで働きたいと思いました。
■進化する会社
―今の会社、株式会社ALTとはどのような会社なのですか?
今はパソコンとモバイルのSEOを扱っているのですが、会社の大きな部分でいうと、私たちはあまりSEOの会社であるというアイデンティティをもっていません。始まりが、私と川西で「ビジネスやろうぜ」という話からで、社会に対してインパクトのあるプラスのムーブメントをしたいというところだったので。そうはいっても、ご飯を食べないと私たちは生きていけないので、今SEOというものに出会い、扱っているために「SEOの会社」ぽいのだけれど、根本は違うという思いがあります。「この水を売ります」というような、一つのものに対する熱い思いはまだこの会社にはないのです。
―その「SEO」とは何ですか?
Search Engine Optimization の略で「検索エンジン最適化」と言います。例えば留学したいと思ったら、GoogleやYahoo!といった検索エンジンで「留学」というキ-ワードを入れて検索しますよね。その時に上の方に表示されればそのページを大体の人はクリックして見ますよね。そうすると多くの人にそのページが見てもらえるということになります。そのようにページを上位に表示させるようにする仕組みがSEOです。私達は顧客である会社のホームページを、特定の単語で検索したときに10位以内、つまり2ページ目以内に表示させるということをビジネスとして行っています。表示させたらお金をくださいと。表示できなかったらお金はいただきませんというビジネスモデルでやっています。最初にお金がかからないということで、リスクが小さいので好評をいただいていますね。ハイクオリティの会社として、携帯市場が膨らんでいて携帯でも検索する機会が増えたので、携帯でもSEOを行っています。そこでホームページをつくる機会もありますが、購買意欲を感じさせるようなホームページにしたいという要望もあるので、そのようなホームページ周りのこともやっている、というのが今のメイン事業です。
―新しい事業はどのように考えるのですか?
戦略的に考えて、つくって、やるぞ!というのをイメージしやすいけれど、実際そういうケースは少なくて、人との縁で始まっていくことが多いです。社外の人と会う機会もあるので、そこで最近こういうのが面白いとか、こういうのが流行っているとか、会話をしている中で面白いなとか、ニーズがありそうだ、などを感じてそれを社内に持って帰り、どうやったら売れるかを話し合って作っていく、というのが事業が生まれる流れですね。自分で本を買って読んだり、ネットサーフィンしたりしていても、なかなかアイディアが生まれてこないし、生まれる時というのはコミュニケーションの中にあるのかなと思うのです。実際外部との接触、人との接触というのは会社として大事にしていることです。アメリカの最先端の学者の論文を読んで、納得して、一人で準備をしたとしても、それは事業になるかもしれないが、天井がそれほど高くない。それより他の会社と協力したり、お知恵拝借じゃないけれど、そのようなことをしていく方がよりいい事業が生まれます。実際社会にでてみると、学生時代にイメージしていたものよりも緩いというか・・・もっとフランクなのです。性質とかバックグランドが違う人間が話していると、何考えているんだこの人と驚くようなこともあって、そういうところからアイディアって生まれていくと実感したのです。
―検索エンジンで上位に表示させるというのは具体的にどういうことを行っているのですか?
大きく分けると2つあって、webサイトはHTMLという文書でできているのですが、その文書を検索エンジンが読み取りやすいようにするということと、もう一つはリンクを増やすということ。リンクというのが重要で、たとえばブログを書いていてお勧めの商品があったとします。人に知らせたいなと思った時にその商品のホームページのリンクを張ったりする。そうすると検索エンジンがそのホームページはみんなから評価されていると読み取って、そのページを上位にあげようという仕組みになっているのです。そのため、お金を払ってリンクをしてもらったり、自分たちでホームページを作ってリンクを貼ったりと、リンクを増やしたり、買ったりして上位表示させていくということをしています。ALTではリンクを貼るという業務は外に委託しているので直接的にはおこなっていません。主にノウハウを集積してクライアントさんに教えたり、マーケティングや成功報酬などの料金体系など、やり方自体を考えることをやっています。リンクを貼るというのは労働集約的で工場の生産ラインでショートケーキにイチゴをのせるようなもの。そういうものはあまりやりたくないのです。社員は最年長が僕と川西で25歳という若い人たちばかりですし、みんな優秀なので、せっかくの優秀な人たちに脳味噌が腐るようなことをさせるのはおかしいと思っているので。最近ではどこでも、労働集約的な仕事を人件費の安い中国の会社に委託するなど、クリエーティブなことまでアウトソーシングされる仕事が増えてきているのですよ。
■ベンチャーで働くということ
―小川さんは会社で何をなさっているのですか?
大きいクライアントさんとのやり取りや、社内の整備です。マネージャー業務と一般的にはいわれるもので、本質的には、私しか今までできなかった仕事を誰でもできるようにするというのが私の使命です。会社では独人性を排除して誰でもどんどんできるようにしていきましょうという考え方があります。私にしかできない仕事があれば「小川さんすごい」と言われるかもしれませんが、「小川さんがいなきゃ会社が回らない」ということに繋がり、組織として会社が回らなくなってしまいます。だから誰にでもできるようにして、自分はまた新しいことを考えるのです。あとは資料をつくったり、こういう時にどうすればいいかなどの考え方や、お客さんがこう言ってきた時の対処法を教えたり、お金のやりくりとかですね。
―どのあたりにやりがいを感じますか?
新しく入ってきた後輩が成長したなと感じるのが一番嬉しいですね。そこにやりがいを感じます。
―今、ベンチャーで働いていて大変なことは?
ベンチャーだと働き方が自由だから、自分を叱ってくれる人がいないのが辛いです。ぐだっとした後に自己嫌悪に陥ったりしますね。大きな会社に入ると決まりごとも多くて、守らないと怒られるけれど、ここでは出社が9時を過ぎてしまったとしてもだれも怒らないし。自律することは大切だと思います。
学生の頃は若いということで驚かれることもあるし、弱点になることもありました。だからそういうところには年齢をひた隠しにしたり。でも最近は若くてもちゃんと価値を提供できるし、そういうところにこだわるのなら私たちと関わらなくていいですとはっきり言えるようになりました。それが会社としての成長ですね。
■働く=「楽しく生きるための最大の手法」
―小川さんにとって働くこととは?
「楽しく生きるための最大の手法」。働かないでニートになったとしても、私はニートを満喫できないと思います。ワイドショーも興味ないし、昼ドラを見たり、ゲームをするのも限界がありますよね。人は働かないと生きていけないのだから、あとは楽しく働いた者勝ち。働かないという選択肢は自分の中にあまりないです。それは人間として生まれてきたのだから当たり前。他にあと70年間生きる間に何をするの?って思います。
学術的にいえば、例えば偉い人がよく講演で「あの時幸運があって今私はここにいるのだ」「あの時の偶然が今の私たちをつくっている」と、ラッキーからどうのこうのという話がありがちです。しかし、「プランド・ハップンスタンス(Planned happenstance)」というのがあって、これは、その幸運というのは偶然ではなくて、あなたがそういうような行動をしたから起きた、それは必然だったのですよという考えです。日々こういうイベントが起きるように生きているのです。
感覚的には…笑顔。私はよくへらへらしていて良くないと言われるのですが、どうしたら楽しいかを日々考えているので、打ち込み作業などの単純作業や資料づくりでも、どうすれば楽しくなるか、どうしたら自分と会社が楽しくなるか、結構考えています。大きい会社だと特に会社の要求などがあるけれど、どんな場合も自分の会社をうまく使おうと意識し続けることが大切だと思います。そうじゃないと言われたことをそのままやりますという、会社ってつまらないなという気持ちに繋がってしまいます。そうすると仕事の効率も悪くなり、早く帰れなくなって、でも遅くまで残ったって残業代もでないし…結局は悪循環に陥ってしまう。働きすぎないというのも大切だと思います。ALTはベンチャーなのだけれど、あまりベンチャーベンチャーしていなくて、というのは「常に全力になってみんなで頑張るぞ!ワー!」みたいな雰囲気ではないのです。帰るのも早いし、土日出勤もない。「ナイターがあるので帰ります」とか(笑)。持続的な会社をつくりましょうということです。その代わり、もちろん瞬間的に100%、120出さなければいけないのですが、いつも100%出していたら死んでしまいますからね。
―これからの目標は?
SEOで得た収益でまた新しいことをやって、失敗してということを繰り返して、周りの反応を見ながら作ってきていきたいです。会社の理念などがまだしっかりしたものがないので、今みんなでそれを考えて、整合性のあるビジネスをやっていく、というのが短期的な目標です。
―将来ある学生にひとことお願いします。
大学生って貴重な時間であまり授業サボれとか言ってはいけないけれど、本当にいろんなことができるチャンスなので、いろんなことにチャレンジしていってほしいです。でも基本的にやってみてダメだったらすぐやめたほうがいい。そうやってどんどんいろんなことが入れ替わって、せっかく始めたとしても、なあなあになってまでやり続けるというのは一番時間の無駄だと思います。もちろん人間関係が絡んでやめるのが難しいこともあるかもしれないけれど、自分の求めているものを探し求めていく姿勢をもつということを、大学生活の中でやってほしい。メリハリをもってやっていると、いろんな出会い、自分の知らなかった世界や可能性が自ずと出てくると思います。
―ありがとうございました。
■関連リンク
株式会社ALT
http://www.alt-commerce.jp/
株式会社ALT サマーインターンシップ
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