A.T.Kearneyパートナー 辻井隆司氏(第二部)
グローバル経営コンサルティングファームのA.T. カーニーのパートナーであり、同社金融プラクティスの代表である辻井隆司氏に取材を1時間半に渡り敢行。
日本IBM、2年間の「プー太郎」生活を経てA.T. カーニーに入社するというユニークな経歴をお持ちの辻井氏。コンサルを志望する学生はもちろんのこと、これから就活を控えている3年生、来年から就職する4年生は必読です。
■ 必要なのはクライアントの期待を越えたアウトプット
―そこまで早く帰っても上司はとやかく言わないというのは、当然ですけれど仕事をきっちりとこなしていたからですよね。
そうですね。最低限のクオリティ、クライアントの期待を超えたものを作っていたつもりですが、それでも早く帰れたのは、ある意味で「こだわりを捨てていた」からです。どんな物事も上位二割が全体の八割を表す、二八の法則というものがありますが、これは働く時間にも当てはまるんです。例えば、100%の出来を出すために24時間必要とします。私は80%の出来を元々目指していたので20%の時間で済むんですね。この80%の出来がクライアントの期待を超えていれば良い。ここがIBMのときと一番仕事の仕方が変わったポイントです。IBMにおいては、クライアントがこだわらないような細部まで完璧にしようとしていました。今でもクライアントの期待がどこにあるのか、どこのポイントを押さえればいいのかにはこだわるのですが、それ以外には、こだわらなければいいんです。上司からも手を抜いているなんて言われたこともありますが、現に手を抜いていたんですよね(笑)。抜くべき所、押さえるべき所を見極めればよい。
―マネージャーからプリンシパルに上がる際にはご自身のどのような点が評価されたとお考えですか。
ファームによって役職の名称が異なりますが、マネージャーとプリンシパルの仕事に関しては継続性がない
部分があります。マネージャーはプロジェクトに対してクオリティを出していくというのが第一です。プロジェクトを進める上で部下のコンサルタントを育てていくことも求められます。プリンシパルはマネージャー同様の役割も重要ですが、プロジェクトを売っていくというセールスの機能が強くなります。私はマネー ジャーのときからセールスもやっていました。当時、不況ということもありコスト削減のプロジェクトが数多くなり、中期経営計画策定や統合戦略策定などの純粋な戦略系のプロジェクトが少なかったのです。少ないなら自分で売っていこうと考え、売りました。そのため、プリンシパルへのハードルはほとんどありませんでした。
―プリンシパルからパートナーに上がる際についてはどうだったのでしょうか。
これも別に非連続的なことがあったわけではないですね。ある程度経ってパートナーにノミネートされる話がありました。違和感なくパートナーになったという感じです。
―コンサルで働いている方が、事業会社に経営陣として転職される例も多いと思いますが、辻井さんは事業会社に行きたいと考えたことはありますか。
ないです。組織に入るというのは、ある意味自分で実際に手を動かしていろいろやれる面白さはあると思います。一方、組織に入ると言いたいことが言えなくなることも少なくない。私は、相手が頭取であろうが社長であろうが、自分が正しいと思うことは言いたい。事業会社では一般的に、40代後半から50代で役員クラスとなるでしょうが、私が40代前半には既にトップを含めた役員クラスの方々と対等に議論出来ました。これは私が外部の人間で、言うことが面白いなぁと思ってもらえたから出来たことかもしれません。
―コンサルティング業界は業界内を渡り歩くような方も多いとよくお聞きしますが、表現はおかしいとは思いますが、辻井様がA.T. カーニーに留まる理由をお聞かせください。
私自身としては非常にカンファタブルだからです。決定的に「外に出たい」ということがなかったことにあります。プリンシパルぐらいになると、外資系の会社を含めて社長に来ないかというお誘いがあります。事業会社に行くときにはトップで行くのと役員で行くのとでは全然違います。トップで行く場合は役員とは異なり、言いたいことも言えるでしょう。しかし、私自身この仕事をしていてやはりトップの責任はすごく大きいと感じていて、もしもどこかの会社の社長になるのならば、従業員の生活のためにも少なくとも自分の生活を全て犠牲にするという覚悟は絶対に必要だと思います。それは私としては好まない。自分のしたいこともやりたいし、自分の全てを犠牲にはしたくないですね。社長になるとはそういうことだと考えています。
―どのような部分がカンファタブルなのでしょうか。
私が日頃、仕事をする上で会社が何らかのハードルになるということはないんですね。仕事をする上で、これをやってはいけないですとかあれをやってはいけないですとかそういう制約はほとんどありません。
■数年で辞めて、また「プ―太郎」をしようかな
―辻井様のこれからのキャリアについてお教えください。
正直言ってあと数年で辞めて、また「プー太郎」をしようかと考えています(笑)。自分が今までやってき たことは人生の中の一部分でしかなく、お金を稼ぐビジネスの世界でロジックで勝負をしてきました。あとトライしてみたいものは、感性で勝負ができる世界で何かをやってみたいと思っています。例えば、芸術ですとか作家とかですね。モノにならなくても全然構わないので、一度トライしてみたいです。50歳過ぎには辞めて、ビジネスからは完全に縁を切ろうかなとも考えています。いつも新しいことに挑戦していたい。また海外旅行もすると思いますけれど(笑)。
―私たち2人は来年から就職して働くことになるんですが、明確なキャリアプランも持たずに行き当たりばったりになってしまうと思うのですが、辻井様はどのようなキャリアプランを持って働いてきたのでしょうか。![]()
私もどちらかというと行き当たりばったりで生きてきました(笑)。明確にキャリアプランを設定して、いついつまでに何をする、何になるんだというタイプの人もいますし、そうでない人もいます。私自身に関しては、その時は希望通りではなかったですが、慶応に入ってすごくよかったと思いますし、友人関係を含めていろいろできることをしてきたと。京大に入らなくて慶応に入ってよかったと思います。IBMも必ずしも第1希望ではなかったけれども、今自分がこの仕事をしているのはIBM時代に培われたものが大きいと思います。A.T. カーニーも最初から決めていたわけではなかったですし。結果的にはその場では必ずしも希望通りではないのだけれども、自分なりに与えられた場で出来ることを見つけていく、結局それがチャレンジになっていく。こういう風にやってきたことが、結果的に良かったと思えています。
■求められるのは「素直さ」と「自責」の2点
―コンサルタントとして心がけていることはありますか。
私が心がけていることよりも、どういう人が伸びるかということについてお話ししたいと思います。コンサルタントとして伸びる人の要素とビジネスマンとして求められる要素というのは基本一緒です。特にコンサルティング会社で言えることは、新卒、中途問わず学生時代を通じて周りから優秀と言われてきたような方が殆どですが、中には上手く適応出来ない人もいます。中でも伸びる人は素直な人が多いですね。素直でないと伸びないと思います。素直でない人とは、すぐ言い訳を考えたり、人のせいにしたりする人です。素直な人は自分の考えと異なる部分はどういうポイントかを理解した上で、言われたことをとりあえずやってみる。そうすると、新しい気付きが出てくる。自分の考えに固執している人はある意味多くの他人の知識や知恵を遮断してしまっているんですね。もう一つは、他責にする人は伸びないですね。何か問題があった場合に、それは上司が悪いんだとかお客さんが悪いんだとかそういう風に言い訳をする人は、問題の原因を真摯に受け止めない。優秀な人で自責に出来る人は概してすごく伸びています。問題が起こったり、うまくいかなかったりする理由は上司やお客さんが悪い場合ももちろんありますが、でもそのときにもう一歩深く考えてお客さんはああいうお客さんだったけれども自分がこういう風にしていれば問題は起きなかったのではないか、と自責出来る人は考えるんですね。ですから物事を深く考える癖がつくのだと思います。これらの2点が重要です。
よく言われることですが、我々の世界では知識は全然価値がないんです。知恵が大事です。知識というものはちょっと勉強すれば誰だってわかるもの。そこで一歩踏み込んで、これはどういう意味があるのだ
ろう、クライアントにとって価値を出すためにはどのようにすればいいのだろう、と考える力がコンサルティングファームでは特に求められると思います。自責にするというのはストレスになりますので、息抜きをしてストレス発散出来ることもスキルですし、求められますね。私は他愛もないことですが飲みに行ったり、昼寝をしたりとかで息抜きしています。オフィスでも寝ている人はよく見かけますよ(笑)。当然一般の企業でそんなことしたら評価に×がつくので、やっちゃだめですけどね(笑)。
―本日は貴重な時間をいただき大変ありがとうございました。
