塾員インタビュー # 28 [11/10/26]

ベストセラー作家 水野敬也氏

水野敬也氏【水野敬也(みずの・けいや)氏】

1976年11月26日生まれ。愛知県出身。
慶應義塾大学経済学部卒業後、芸能活動を経て作家として活躍。
著書である「ウケる技術」や「夢をかなえるゾウ」はベストセラーに。
2010年、友人と共に文響社(出版社)を設立し、現在は執筆活動と並行して後進の育成にも力を注ぐ。

 
ー宜しくお願いします。

こちらこそ、宜しくお願いします。

とにかくモテたかった大学時代

ー僕たちは「慶應ジャーナル」ということで、まずは水野さんの慶應時代を中心にお伺いしたいと考えております。水野さんの学生時代はどのような感じでしたか?

あんまり、人前で話せた内容じゃないのですが、まず僕は凄いモテたくて慶應に入ったんですよ。


ー<笑>

東海高校というそれなりの進学校だったのですが女の子がいない男子校だったので、モテている連中というのはごく一部だったんですよ。それで彼女が欲しくて慶應を目指して上京してきました。

僕はまずクラスの子を好きになったのですが、五月で既に振られてしまいました。その時、慶應に入っただけじゃモテないじゃん!完全に間違えた!って思いました。

よって戦略の変更を迫られたので、「イケてる人たち」に近づいていきました。新歓期なんかだと新入生はいろいろ勧誘されるじゃないですか。けど、僕の場合は逆に「イケてる人たち」に「カッコいいすね!何やってるんすか?」みたいな感じにナンパみたいにして声を掛けていきました。その流れで、イベントサークルとテニスサークルに入っていましたね。

ただ僕は、自分で言うのも恥ずかしいのですが、ロマンチストなのでそういう「イケてる人たち」と話が合わなかったのでストレスフルな部分はありましたね(笑)。自分と真逆の人間なんだから当然ですよね。けどモテるための勉強だと思って我慢してました。


ーなるほど、それでモテるようになりましたか・・・?

いやー(笑)、大学1年生の時は恋愛とか心理学の本を読んだり、飲み会に行っても後でひたすら大学ノート相手に一人で反省したりしてましたね。僕、そもそも中高と男子校で女の子と喋ったことがほとんどなかったので、大学に入っていきなりそういうことを迫られて、凄いストレスやプレッシャーを感じてたんですよ。それで僕は「もうダメなのかもな」と大学1年の9月くらいに諦めかけてました。

そこに、家庭教師のアルバイトの帰りに立ち寄った綱島の本屋で読んだ400ページくらいの某恋愛ハウツー本との出会いがあったんです。その本にはとにかく「男は顔じゃない!」っていうことがずらーっと書き連ねられていました。それを読んで号泣しました。


ー<笑>

モテよう、恋をしようっていう時に最初にぶち当たってしまうのはやっぱり「自分の好みのような可愛い子は、イケメンじゃないとダメなんだろうな」っていう部分だと思うんですよ。今なんて特にイケメンブームですし。それを全然ブサイクなのにナンバーワンホストでモテモテの著者が「男は顔じゃない!」ということを力説していたのは感動的な励みになって、「もう一回頑張ろう!」と思えるようになりました。


ーそれが現在の作家という職業にも繋がっているかもしれませんね。

そうですね。それが今まで受けたあらゆるサービスの中で最高のものだったので、この感動を自分も提供出来たらと思いました。自分が本を書くことでその向こう側に感動している人の姿が見えるんですね、あれだけの感動を逆に与えられたら最高だと。良く本は自己救済といわれますが、まさにその通りです。


ーちなみにさっきの本の「男は顔じゃない!」っていう主張は今も正しいと思われていますか?

これは明確に正しいと言えますね。なぜなら女性の好みって非常にバラバラなんですよ。誰が見てもカッコいいと思われる俳優を受け付けない子も、気休めじゃなくて、いるんですよ。僕は訓練だと思って大学1年の頃からいろんな女性と話したのですが、それは本当に感じましたね。あとは女性は生理的というか直感的な部分で選んでいるというのも感じますね。僕が昔トライしてダメだった子に、作家として有名になってから見返そうともう一回トライしたのですが、やっぱりダメでしたから(笑)。見返そうと頑張っても、そういうものじゃなくて、ダメなもんはダメなんですね。


ーそれでは男がモテるためには何をすれば良いでしょうか?

まずは「攻める」ってことですよね。気に入った女の子がいたら、自分が好意があるということを薄ら伝えつつ、あの手この手でデートに誘ったりと、行動し続ける奴ですよね。モテてる奴は間違いなくそうしてましたね。

あとは僕の「LOVE理論」という本でも書いた「上っ面kindness」という概念を体現しているかですね。女性が好感を持つ男の「優しさ」って椅子を引いたり、コートを掛けたり、車のドアを開けたりという極めて表面的なものなんですよね。女性ってある種、接客的な極めてテクニカルな優しさを求めているんですよね。これが出来るか出来ないかで大きな差がつきますね。(取材者註:この当たりは水野氏の著書「LOVE理論」(現在は『「美女と野獣」の野獣になる方法』に改題)に詳しい)

付け加えれば、逆に男性が求める女性像っていうのはシンプルなので努力の方向性を間違わなければモテるようになるまで時間はかかならいと思います。


ーそれから大学4年間を通じてモテましたか?

大学2年で可愛い彼女ができましたね。彼女が出来たら「部屋で一緒にゲームをやる」という夢があったので、それを実現させました(笑)。そんな調子で大学3年になってもうゼミと就職活動じゃないですか。ゼミは複雑な経緯があってサークルの先輩たちと三国志を2日徹夜でやって試験を受けられず、入ってなかった。就職活動の方は、当時ガンガン氷河期だったこともありますが、僕の大学生活はこんな感じだったのでそれを面接でそのまま正直に言うと大爆笑されるんですよ。けど、全然通りませんでした(笑)。


ー就職はせずにどのような進路を歩まれたのですか?

その後、とあるストリートパフォーマンスを2年半くらいやってましたね。プロダクションにも所属したりしてました。CMにも出ました。昔からテレビに出るというのが夢でもあったので。けど、自分がテレビでスベっているのを見たりして「テレビに出ることは見る人が多いということで、自分が凄いというわけじゃないんだ」と悟って冷めてしまいましたね。それでやっぱり本を書こうと思いました。


ー本を実際書き出したのはいつのことでしたか?

書き出したのは25歳のころで、1年ほど貧乏生活をしながら書いていました。それを持ち込み始めたのですが、あまり上手く行かなかった。ちょうどそのころ一緒に住んでいた友人たちと企画が持ち上がっていて、それが「ウケる技術」でした。

ただ、僕みたいな全く無名の若造が「笑い」について書くというのは非常に傲慢なことなんですよ。そういうのって、松本人志さんとか明石家さんまさんのような一流の芸人が書くのが普通じゃないですか。だから普通だとその時点で諦めると思うんですよ。ただ、僕はその時点で20半ばでほぼフリーターという人生をドロップアウトした状態だったので、「どうやったら本として成立するか」ということで必死でした。そこで思いついたのが「本そのもの」を面白くしよう、ということでした。写真であったり、実際の会話例で笑いを取る。本の構成要素の50%くらいを「笑い」にしましたね。

その時に実は大きな発見がありました。僕が書くことによって上から目線じゃなくなる。だから読んでいる人にもスムーズに入っていきやすいんですね。相手のプライドを傷つけず必要な情報を伝えることが出来るという、僕からすれば革命的な発想でした。

自己啓発書やハウツー本って「俺が結果出してるからこうしろ」というのがほとんどじゃないですか。例えばナンバーワンホストだから恋愛について書いたり、成功者だから金儲けについて語ったり。けど早い話、そういう類いの本は自慢になってしまうんですよね。ナンバーワンホストが書いた本とかは大学時代ほぼ読んでたのですが、僕自身も「なんでこんな偉そうなん?」と思っていました。だからむしろ、僕のような普通の人が書くことでサービスを高めることすら出来る。


ーつまり発想の逆転ですね?

本来なら自分では書けない本が成立した。つまり、「こうでなきゃダメだ」という自分の条件付けを取っ払うことが出来たということですね。実はこれは何にでも言えることなんですよ。例えば、「お金がないから起業出来ない。」っていうのも全く同じで、お金がないのなら「借りる」というようなことをやってみる。ハードルは高いですが、それをクリアしていけば自分のお金だけでスタートするよりとてつもなく多くの人と仲良くなることも出来る。それでビジネスが有利に進むかもしれない。条件を飛び越えることで、何もかもチャンスにすることが出来るんですよ。

「夢をかなえるゾウ」誕生秘話

ーそして水野さんを一躍有名にしたのは「夢をかなえるゾウ」だと思うのですが、これはどのような着想から生まれたのでしょうか?

ストリートパフォーマンスを辞めた25歳の時に「もう好きなことをやろう」と決めたんです。思いついたことは全部やる生き方をしようと決意したわけです。お金に変える方法は後から考えれば良い。例えば民族紛争を止めたいと思ったら「さあ、止めにいくか」というような感じに。

その時から本当にいろんなことをやりましたね。慶應の三田祭でバーテンダーお好み焼き屋台ってのもやりましたしね(笑)。バーテンのシェイカーを使ってお好み焼きの具を混ぜるというものなのですが、これが意外にヒットしました。実はこれも学生時代イベントサークルをやっていた時から考えていたことなのですが面倒臭くてやらなかったんですよ。それはよくないってことで、実際やったんですよ。

そういった数多くの企画の中に、自己啓発書に関するものがあったんですよ。自己啓発書って読んだときは興奮して盛り上がるけど、しばらくすると冷めちゃって最終的には忘れてしまう。このサイクルが僕は凄い気になっていた。そこで僕は一日一個実行出来るハードルが低いもの、例えば「人を褒める」とか、を用意して出来なくてもヘコむことのないような自尊心を傷つけない自己啓発書を作ろうと思ったんです。それを365日分作って、偉人のエピソードに当てはめてみたりしました。

1年半くらい掛けてそれを完成させたのですが、それを改めて読み返してみるとめちゃくちゃつまらなかったんですよ(笑)。思わずなんじゃこりゃ、って言いたくなりました。編集者なんて青ざめてましたけどね。これは何でだろう?と考えてみたら、自己啓発書の「盛り上げ」に対しての疑問から始まっただけあって、その本を読んでも「盛り上が」らなかったんですよ。どのページを開いても変わらないから、それを読んでも自分が変わる気がしないんですよ。スタートの自己啓発書の「盛り上げ」に対する疑問が自分の首を絞め始めたわけです。

これはストーリーにしなくちゃいけないと思っていたところに、全く別の企画で「サラリーマンと関西弁の神様の絵本」というものがあったのですが、それに対してすごく魂が乗ったんですよ。そこからは早かったですね。

今考えれば企画として良く出来てましたが、その時は目の前にあるものをどうしようかとしか考えていませんでしたから。分析してみればヒットする様々な条件を満たしているのですが、その時はその条件に当てはめようなんて考えていなかった。どうすれば売れるかなんて考えたらダメなんですね。なぜなら魂が乗らないんですよね。


ーそれがあの累計で190万部を越える大ヒットを生んだわけですね。僕はガネーシャの言葉が好きなんですけど、あれはどこから出てきたものなんですか?

それはあんまり見抜かれてないし、言ってないことなのですが、基本的には僕自身の言葉なんですよ。僕ってめちゃくちゃいろんなことを経験してきたんですよ。バーテンダーお好み焼き屋台から会社も作ったし、人が作ったものを営業したし、DVDも作ったりしていた。ありとあらゆることをやり続けていた。だから経験から語れることがあったんですよね。けど、僕は別に成功しているわけでもないから、それをそのまま書いても意味がない。それで過去の偉人の話を非常に良くマッチする形で当てはめていったんですよね。

「夢をかなえるゾウ」は、僕がたくさんの自己啓発書を読んだ中の良いとこ取りをした切り貼りによく見られるんですけど、実は自分の経験を語るために無理して探してきてるんですよね。でも、そうやって切り貼りに見えた方がいい。なぜなら、僕のような30代の若造の話しを60代の人は確実に聞きたくないんですよ。「俺が下なの?」ってなりますから。けど、切り貼りだったらその人のプライドは傷つかないんですよ。最後に出典をたくさん載せたのも、サービスの一環でした。


ー凄い秘密に触れてしまった気がします。

読者としては知らなかった方が良かったかな(笑)。けどモノ作りの手順としては凄い参考になると思います。ただ単純に考えたら顧客に対するサービスを高めていった結果だけなのかもしれません。


ーそれでは水野さん自身の「夢」は何ですか?

僕はゲームが凄い好きなんですけど、ゲームを一日中やり終えた時に感じる「何とも言えない虚しさ」みたいなのがとても気になっていたんですよ。小学生の頃から毎日感じていたんですね。ゲームにハマればハマるほど、現実では取り残されてしまう。この状態は凄い不幸だと思うんですよね。だから現実で楽しめたり感動出来たりするツールを作りたいと思っています。


ーゲームと現実の遊びの違いって何ですか?

まず傷つくんですよね。言い換えれば、自分は安全地帯にいるから最初に快楽があるんですけど、あとから不安になるんですよね。現実は逆にやる前に不安になるけど、終わってみれば成長してるから安心なんですよね。僕も今は20代の時のような底抜けの恐怖はありませんね。もちろん不安はありますが、いろんな戦略があるから身動きの取れなくなるような不安はないですね。


ー慶應の学生ってどんなイメージがありますか?

受験やなんやらで「勝ってきたブランド」っていうのをあまり手放さないなって感じますね。それは可能性を閉ざしているという意味で勿体ないと思いますね。それは慶應だからというわけではなく、早稲田も東大でも大学生ならほとんど変わらないと思います。基本的に大学生ってめちゃくちゃなことしないじゃないですか(笑)。

付け加えると人って組織や環境で本当に変わると思うんですよ。大学という環境の中の人の目的って一つじゃないですか。つまり、上から与えられた仕事を処理して、給料は800万から1200万円くらい貰いたい。大学生の99%はそこを目指すじゃないですか。だから、良い意味で狂わないんですよね(笑)。他の場所にいたらもっと隠れた才能が出るかもしれないのに。

私がこういうのは、もっといろんな経験をして欲しいという思いがあるからなんですよ。経験してみないと「隣の芝は青い」ままなんですよ。決められたレールを歩き続けると本当にやりたいことは定年まで出来なくなってしまう。その間も、ずっと青い芝を見つめることになる。例えば「本を書く」って行為がしたいならば学生のうちにやってみれば良い。自分で一生懸命書いてそれを出版社に持ち込んでみるとか。そこまでやれば実際に出版に至らなくても「本を書く」ってことが見えてくる。答えを言うと「本を書く」って一日中パソコンの前で文字を打つだけなんですよね。それが分かっただけで凄くいいんですよね。

僕は4年で留年したり就職できなかったりという強制力が働いたこともあって、20代で本当にいろんなことをやった。だから青い芝がほとんどなくて、自分がやりたいことをある程度の確信をもってやれる。誰しも憧れや好奇心の示す道に本当は行くべきなんですよ。


ー質問が重複してしまうかもしれないんですけど、水野さん自身が学生時代にやっていればよかった、と感じることはありますか?

大学1年は凄い満足してるんですよね。その時やりたかったこと、つまり「モテる」ために全力を尽くしたから(笑)。

それ以降はもっと将来に向けた準備をすべきでしたね。自分を表現したいと思ったらそのための方法をもっと真剣に考えるべきでした。その強制力が働かないのが大学なんですよね。全く働かないですね。「自分が何かをやりたい」という欲望の先にしか教育は成立しないと僕は思っているのに、そういった欲望が抑えられる環境ですから。


ーちなみに暮らし向きという意味ではどうでしたか?

周りより年収が一桁違いましたね(笑)。作家を目指し始めた頃は月10万円の居酒屋のアルバイトで生活していましたね。それ以上稼ぎたくなかったんですよ。なぜなら、普通の人って週5で働くじゃないですか。それより文章を書く時間が少なければ勝てないなと思ったんですよ。だから週2のバイトで生きていこうって決意しました。


ーそれで生活出来たんですか?

それが全然出来るんですよ。バイト先のまかないや安い時にスーパーで買い溜めしたりしたり、人からおごってもらったり。むしろ友人と共同生活をしていたので、風呂とトイレ付きの人間的な家に住めてました。娯楽はレイトショーを見たり、オフィス街をサイクリングしたりしてましたね。この貧乏生活が凄い楽しかった。だから「貧乏をする」っていう授業があってもいいと思うくらいです。

水野流思考術!

ーいろいろ伺っていると水野さんは打ち出すアイデアが独創的だと思うのですが、どうすれば良いアイデアは生まれると思いますか?

これは僕もいろいろ調べたんですけど、王道はほぼないですね。組み合わせとか理屈で出てくることはまずないですね。理屈で考えると「ジャンプ」が生まれないんですよね。理屈ばっかりだと予定調和になって化学反応が起きないんですよ。

僕は自分の中でテーマを延々と考えてますね。ひたすら考える。
一つは「時間」。そのテーマに対してどれだけ時間を使ったかでアイデアの質は決まると思います。もう一つは壁にぶち当たった時に何をするか。僕の場合はアシスタントや友人と「話し」ますね。そうすると脳みそがまた変わって疲労感が抜けるんですよね。


ー水野さんの目指す次のステップは何ですか?

本が売れてきて少しずつ満たされている部分があって、目標っていうのは変わりつつありますね。昔はモテたいばかりでしたが、今はそんなことで悩むことはないですしね。今は「とてつもない作品」を作りたいですね。それっていうのは明確に定義付けていて「誰が見ても素晴らしい」もの、例えばiPhoneのように。そういうのって僕が現在想像出来るレベルのものではないと思うんですよ。きっとそれって偶然のように出てきて、魔法に掛かったように進化していくんですよね。「夢をかなえるゾウ」もそういう部分があったのですが、この瞬間が最高に気持ち良いんですよね。そういうのを今は追い求めてます。


ーお忙しい中、長時間に渡りありがとうございました。


【取材者の感想】
思っていた以上にユーモアのセンスに溢れた方でした。それでいて話しの随所にオリジナリティと理論性があり、非常に頭の良い方だと感じました。水野さんの著書は全て読みましたが、どれをとっても得られるものが大きいので是非お買い求めください。

◆水野氏著書紹介◆
夢をかなえるゾウ 「美女と野獣」の野獣になる方法 四つ話のクローバー
雨の日も、晴れ男 ウケる技術  
取材:勝部一志