塾生インタビュー # 20 [04/05/07]

フィガロの結婚 演出 佐藤美晴さん

5月29日、30日にさいたま芸術劇場で行なわれる学生公演のオペラ『フィガロの結婚』に演出として参加している佐藤美晴さんに、オペラの仕事の体験や、オペラの魅力について語っていただきました。

 

学生公演だからこそできたこと

「学生公演のオペラという試みは大きな挑戦です。しかしそれだからこそ、慣習にとらわれずに自由に作品にむきあうことができています。モーツァルトのオペラは現代にも通じる普遍性があります。それを多くの若い聴衆に知ってもらいたい。(インタビューより)」

■「フィガロの結婚とは?」

~伯爵付の召し使いフィガロと小間使いのスザンナの婚礼をめぐって繰り広げられる、
ある一日の大騒ぎの物語 ~

詳しいあらすじは以下↓
http://www014.upp.so-net.ne.jp/FIGARO/frame_page/frame_story.html

■今回の『フィガロの結婚』の公演について

芸大の指揮科の角田さんがモーツァルト・オーケストラというのを大学1年頃から立ち上げていたのですけれど、それの一貫として、芸大生たちが自分達の手によってオペラをやろうっていうので、2002年に『魔笛』を三鷹公会堂で公演したんです。それに続いて今回は『フィガロ』をと。魔笛が終わってから考えられていて二年ほど暖めていた企画で、去年の9月くらいからキャストとかを本格的に集め始めて、11月くらいから稽古を始めています。

キャストはソリスト14人、オケは34人ぐらい。合唱も全部芸大生。合唱の規模は20人ぐらいですね。裏方スタッフを入れると100名弱ぐらいです。

なにより今回一番いえるのは芸大の最強メンバー陣が集まっているフィガロだ、ということ。

すでにプロの公演で活躍している方たちがキャストで出演されています。もちろん指揮者の方も若いけど大変有望で、すでに多くの現場経験をされていらっしゃる方です。このようにみんなまだ若いですが、普段はプロのオペラ公演などで活躍し始めてる人たちが今回は完全にギャラとかは全然なしで、自分達の勉強と経験のために参加されています。だから練習も自主的に作り出している雰囲気があっていい空気です。みんなこの公演にはとても力を入れていて、他の仕事を断ってでもこちらの公演に集中して取り組んでいらっしゃいます。

■チケット収入だけでオペラを

資金面はチケット収入だけで行なっています。
チケットをお1人さま1900円という低価格はオペラではきわめてまれです。私も実際に『魔笛』の公演の時に客として感じたのですが、こんな値段でコレだけ充実した公演があるんだという驚きがあると思います。

しかも、歌手の人たちは本当に素晴らしい方々で、例を挙げれば、スザンヌ役の臼木あいさんは今まさに注目を集めている素晴らしいソプラノです。昨年は最年少で日本音楽コンクールで優勝をされています。今回は彼女の若々しく美しいスザンナを聴く絶好のチャンスです。

スタッフも含めて基本的に全員がプロを目指している若者が集まっています。舞台美術と衣装デザインは芸大油絵科の後藤温子さんと私とで一緒にやっています。ヘアメイクはバンタン芸術学院の学生、衣装はフリーのスタイリストさんや衣装さんに協力していただいています。

衣装も自分達で作っています。ウエディングドレスをただで15着ぐらいもらったので、それを全部分解して自分達でつくっています。

舞台は非常にミニマムな舞台になっています。
最初はほとんど何もない舞台から幕を追うごとにモノや色彩を増やしていくという、色や形象での表現にこだわっています。

4幕の庭のシーンでも普通は隠れ家とかが必要なのでベニヤなどで作られた茂みなどの具象的な舞台が多いですが、今回は色とりどりの傘の森の内側に人が隠れているという風にしています。

 


 ▲「フィガロ」で使用する衣装のスケッチの一部

■学生公演だからこそできたこと

学生公演のオペラという試みは大きな挑戦です。しかしそれだからこそ、慣習にとらわれずに自由に作品にむきあうことができています。モーツァルトのオペラは現代にも通じる普遍性があります。それを多くの若い聴衆に知ってもらいたい。たとえば上司や偉い人にいやみを言うシーンなどは、もちろん現代にも通じる皮肉であり笑いです。

字幕も試みのひとつで、現代の聴衆に理解してもらうのにはどういうのが一番良いかという風に考えて、芸大の学生と、学習院の大学院の方とで作っています。お客さんも今回は若い方も多いのですが、字幕も現在よく使われているものは、我々の世代とは多少ことばのギャップがあるため、それを今回若い人が作り直してみようとチャレンジしています。

若い学生達が集まって、若い観客のためのオペラをつくる。というのは、それだけでも面白いし、貴重なことなので是非足を運んで欲しいですね。

 


「フィガロ」の舞台スケッチ。このシンプルな舞台に全てを閉じ込める。

■オペラでの演出家の役割とは・・・

オペラでは、セリフの間や、タイミングの時間は全て音楽によってきめられているので、演出としては制約が一番厳しいジャンルの一つだと思います。だけれど、制約が多いので、かえって色々な冒険ができるジャンルだと思っています。視覚的に見せるということと、楽譜の解釈によって人間がよりイキイキとして見せるためにお手伝いする仕事ですね。

実際はオペラって一ヶ月ぐらい合宿みたいな感じで共同作業をしても、やっとできた頃には2回くらいの公演をやっただけでさようなら。という、ちょっと寂しいモノなんです。それに稽古はいろんな国から文化も環境も違う人が沢山集まって行なうので、時にはカオス状態になることもあります。

昨年は南フランスのエクサン・プロヴァンス音楽祭が突然全部中止になりました。裏方のスタッフによるストライキが起こったんです。演出家や指揮者、あ、このときは佐渡裕さんが振っていたんですけど、そういう人たちはスタッフが欠けた状態ででもやろうとしたんです。でも、本番で指揮を振り始めたときに、会場の周りから罵声やラッパで妨害が起こって成り立たなくなってしまったそうです。これは社会の一面を表している悲しい事件でした。お客さんは裕福な人たちが来てお金も沢山使っていくのに、不眠不休で働いている裏方の給料はとっても安いというわけです。何ヶ月も準備して、頑張って作ったのにそれが本番直前でなくなってしまう。そんなことがありえるんだというのにショックを感じました。

■それでもオペラはやめられない。

やっぱりオペラの味を知ってしまったから。
味を知ってしまったからもうコレしかない。

って、思っちゃったんですね。よく私は音楽を食事にたとえるんですが、こういうおいしい食材を使って、こういう風に調理したら、こんなにおいしい料理ができるっていう味を知ってしまうともうやめられない。どちらかが素晴らしくても、扱い方を間違えたら失敗する、というところも似ています。

具体的な事を言えば、オペラは今一番新しい可能性がある分野のひとつです。戦後斬新な演出が起きて、スキャンダルな上演も沢山出てきています。
クラシックという一見保守的に見える枠の中ですごくスキャンダラスな事をしてるっていうのが面白いですね。

能や歌舞伎の手法や、現代風のアメリカンカルチャーとかいわゆるオペラの世界とは違うものが演出に取り入れられたりしています。

たとえばモーツァルトの宮廷社会を描いた作品が、全然違う現代のお話になってたり、現在のオーストリアに対する政治的な批判があったりとか、観客に集団ヒステリーを起こさせるような公演などの公演が出てきています。

■ワグネルにチャンスを貰いました。

私はワグネルでVn.(ヴァイオリン)をやっていて、大学3年の時の演奏旅行でウィーンに行ったときに、高島勲さんというオペラ演出家の方に出会いました。
私はヨーロッパの劇場で働きたいという希望が昔からあったので、劇場で学びたいということを話したら、日本の私の仕事にアシスタントで入ったらどうか。と言ってもらえて。それはとてもラッキーでした。
それで帰国してから、しばらくの間劇場などで見習いとして仕事を教えていただけたので、そこからオペラのプロの世界に入ることができたんです。

ワグネルでの体験は貴重でした。
私は高校を卒業した後にもともとは玉川大学に進学したのですが、そこで音楽の勉強をするより舞台に関わることをやりたかったので、様々なチャンスがありそうな慶応に来たんです。実際に慶應に入学してワグネルをやれたことで、チャンスももらえました。
やっぱり、ワグネルではすごく影響受けてます。

音楽についてよく学ぶことができましたね。人が気付かないところにこんなに気持ちを込めて手間隙かけて作っていくんだ。っていうことを知りました。

■そしてウィーンへ留学

この公演が終わった後は学校の交換留学制度でウィーンに行きます。その後にドイツに長期留学に行きたいと考えています。

ドイツ語とかドイツの劇場の仕組みなども学んで、ヨーロッパで行なわれているオペラのフェスティバルなどに関わって行きたいなと思っています。

熱くオペラの魅力について語ってくださった佐藤美晴さん。
必ずや将来日本のオペラ界で名を馳せるであろう佐藤美晴さんの名を、今覚えておいて損はない。

 

モーツァルト・オーケストラ主催
W.A.モーツァルト 作曲 オペラ『フィガロの結婚』 K.492
全四幕(原語上映・字幕付)

会場:彩の国さいたま芸術劇場 大ホール  
全席自由 1,900円/チケット前売り3月下旬予定
2004年5月29日(土) 12:00開場 13:00開演
      30日(日) 14:00開場 15:00開演

詳しい公演情報はコチラ↓
http://www014.upp.so-net.ne.jp/FIGARO/

取材:伊庭野健造、吉川英徳、堀井綾子