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塾員インタビュー #12
■株式会社イレギュラーズアンドパートナーズ
 代表取締役社長
 山本一郎さん(切込隊長) Part2
イレギュラーズアンドパートナーズ 代表取締役社長 山本一郎さん

ネット界にその名を轟かせる「切込隊長」、山本一郎氏。
個人投資家にして、ゲームやインターネット関連企画のプランナーでもある。 有名インターネット掲示板である「2ちゃんねる」の創設にも関わり、 現在は人気週刊誌「週刊SPA」などに連載を行うという凄まじく多彩な顔を持つ。
今回はそんな山本氏に、在籍時代を思い出しながら、 「慶應」について辛口で切り込んで頂いた。
今の大学生には考えられないほど波乱万丈な大学生活を送った彼の話は、 その切り口がとても鋭く、考えさせられるところが非常に多いだろう。

ジャーナル編集部も驚いた彼独特の辛辣なコメントを、ご堪能していただきたい。

■切込隊長BLOG(ブログ)〜俺様キングダム〜
http://kiri.jblog.org/
■イレギュラーズアンドパートナーズ株式会社
http://www.i--p.com/



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■インターネットの世界と「切込隊長」

―「切込隊長」のハンドルネームはネットで有名ですが、インターネットの表舞台に出るようになったのは、いつ頃からですか?
そのちょっと前ですね。ウィンドウズ95が出る直前位にパソコン通信が花開いてですね、ニフティとかああいうパソコン通信がどーんとユーザーを増やしてた時代だったんですよ。

そういう所に出て行って色んな人に「バーカ!」とか言って喧嘩売って遊んで・・・っていうのがあったんですけど(笑)

その時位から「切込隊長」ってハンドル使ってたので、結構昔のネットワーカーの人たちは覚えててくれてて、「あー、あの頃の切込隊長がBlogやっとる」とか「まだ前線にいるんだな。あっはっは」とか、大きなお世話なんですけどね。そういった意味ではきっかけは早かったです。

まあ、結構色んな人が、文字だけのコミュニケーションをしていると、いろんな行き違いや誤解があったりする訳ですよ。文字面だけの話なんで、思った様に事が進まないという。普通なら何の問題もなく進むべきものがが、言葉だけであるが故に、上手く進められないとか。

で、それを比較的若い頃に体験できていたので、「どうなったら揉めるか」とか「どうなったら落ち着く」ってのが自分なりに良く分かるんですよ。あと、問題起こす人のパターンとかも大体分かるので、非常に愉快な世界だなっていう。

例えば、色んな新参者が入っていって、初めてネットに触る訳じゃないですか。で、色んなコミュニティに参加したり自分でコミュニティを作ったりして、自分なりに居心地の良い場所を見つけて行く。そのプロセスを辿っている間っていうのは、ネットに過剰な期待感や恐怖感があったりして・・・で、だんだん慣れていく訳ですよ。

慣れていく間に「他に面白い事がある」とか「自分は馴染めない」とか思ったら、インターネットから去って行く訳じゃないですか。そういう人達は「インターネットってあんま面白く無いな」と言ってる訳ですよ。まあそれはいいんですけど。

でも、大多数の人は入っていく。

まさに今現在どんどん人が入ってきている段階で、Blogであるとか、Mixiであるとか、Xoopsであるとか、色んなサービスがわーっと出てきた。で「これからどうやって転がっていくのかなぁ・・・」っていう時代なんですけどね。

ただ、これって結構ニフティと同じ道を辿りそうに思えてて。いつか来た道だなあ、っていうのを感じてるんですね。「草の根BBSが立ち上がりました」っていう時と、ニフティみたいな大手で「商用パソコン通信が始まりました」っていう時と、あとはWin95発売でホームページ作成ブームがあった頃ですね。あの頃に、いっぱい新し物好きがやってきた。
新しく人が入ってくるストリームって、大体似ていて、同じ様な経過を通ってくるんですよ。だから「人がどういう思いをネット上に出していくか」っていう事って、先を結構読めると。

そういった意味では「始めからインターネットやってて良かったなー」とか「商売の役に立ってるなー」とか凄く思いますけどね。

―「切込隊長」ってハンドルネームをネット上に持ち込んだのはいつ頃からなんですか?
最初からです。僕のニフティ時代のハンドルは、切込隊長@山本一郎だったんですよ。ハンドルが露骨なんでよく誤解されるんですけど、単に草野球で一番打ってたから「切込隊長」ってニックネーム付けてただけなんですよね。当時参加してた野球フォーラムとかでは「切込隊長?ああ一番打者ね」みたいな反応で、なんて事はなかったんですけど。段々表に出てくると「何かヤバイ事するやつなんじゃないか」って思われる様になった訳です。非常に穏健で無難な人柄なんですけどねえ、僕。

【関連リンク】
ソーシャルネットワーキングサービスMixi http://mixi.jp
Xoops http://jp.xoops.org/

■慶應の人は良く新しい物好きだと言われますが・・・

と思うんですけど。慶應の人間って慶應で固まる習性があるんですよね。例えばGreeとかでもそうなんですけど、慶應の人間が固まって慶應同士で仕事融通しようっていう。

そういうのがあってですね。それが磐石であるが故に、良い面もあるんですけど、逆に可能性を殺いでるのがあって。具体的にどういう事かっていうと、Googleとかその辺のビジネスやってる人に慶應の卒業生はあんまりいないんですよ。まあせいぜい僕くらい。

Googleとかskypeとか、「これから何かやって行こう」っていう最先端の所に慶應生って意外といない。

で、これから「普及するぞ」って時に、慶應の人間がドバッと突入してくる。この辺はやっぱり慶應の特色なのかなぁ、と。いわゆる商売として成り立つソロバンが立ってから慶應の人間が殺到してくるという、そういう習性があるように思えるんですよ。

でも実際、僕自身も慶應卒業して良かったなというのはいくつもあって、例えばクライアントからオファーが来る時に、慶應卒だって事で選ばれたりって事がたまにあります。

「学閥関係無いよ」って言っている会社もあるんですけど、そういう所に限って、「その人の信用どこで得るか」っていう、最終的な根っこの部分を判断する時に出身の大学とか、元々どこの企業に勤めてたか、って事を問うというのがありますね。

だからそういう意味で言うとソニー、松下もそうですし、最近だとリクルートやドコモ、野村證券など、OBの間のネットワークで大きい仕事をしようという流れがある。比較的オールドのビジネスの人たちって、口では学閥関係ないと言いつつも、蓋開けてみると人をどこで信用するかっていう時に、学歴だとか、前の会社の経歴を気にするっていう事はよくあります。

あと人脈を使う上で、大学名のパスポートとしての有用さってのは感じるんで。案外捨てたもんじゃねえな、っていうのを卒業してみて感じますね。

【関連リンク】
GREE http://h.gree.jp
Skype http://web.skype.com/home.ja.html

■ベンチャービジネスと慶應

―最近慶應勢もベンチャービジネスの世界で活躍している様ですね。
そうかもしれないっすね。実際このあたりベンチャーに対する誤解がみなさんあるのかも思うんですけど、例えばベンチャー始めるじゃないですか。で、ベンチャーの状態からだんだん規模が多きくなって大企業になる確率よりも、ある程度大きくなった時点で、既存の大企業を補佐する形でよりかかっていって、出資を受けたりしながら大きくなる確率の方が高いんですよ。

例えば新しいビジネスをネットで始めました、と。mixiとか。まああれは慶應じゃなくて東大ですけども。彼らは、独自でやってある程度大きくなってきた訳ですよ。たいしたものです。

サイバーエージェントとかの資本を受けながらも、「最終的には独自でやってますよ」と。でも独自でやって儲かってるか、というと彼ら別におおいに儲かってる訳ではないんですよ。貰った増資を少しずつ使いながら、「みなさん喜んでもらってる」という、そんなビジネスになってる訳です。

それ以外にも例えば商取引の分野で、「E-コマースの実用化」ってやってたベンチャーがありますけど、彼らが自分達で何とかできてるかっていうと、そんな事はまずなくて。

むしろ、今までのオールドな企業、それこそ、ソニーであるとか、松下、日立、三菱電機、あとは三菱商事とかの商社系とか。そういうオールドカンパニーの人たちがネットに出て行く時に「水先案内人として使ってもらう」っていう時の方が、大きく成長する事につながり易い訳です。オールドな会社も、やっぱり生きていくために新しい仕事や技術領域には関心がある。なので、そのむしろオールドに属する人たちを新しい所に引っ張って行く水先案内人としてのベンチャーの方がハンドリングする時にものすごい可能性が広がる訳です。

インデックスの落合さんなんてのも慶應なんですが、あの人は商社出身。商社的なやり方で、物事をハンドリングしていくという技法がありますと。その技法を何に使ったかっていうと携帯と言う新しいデジタルのガジェットがあって、そこに対してコンテンツを流していこうと。で、最初にNTTドコモがインデックスに目をつけて「一緒にやりませんか」と。それがきっかけになって、そのままある程度発展していって、その過程で三菱商事がお金出しましょう。フジテレビがお金出しましょう。テレビ朝日がお金出しましょう。電通がお金出しましょう、と。それで一気にがーっと大きくなる。

何か新しい事をやる時って、今までの人たちの助力を借りながらやった方がレバレッジが効くんですよ。大きく成功する可能性が高まる。だからそれを「慶應」っていう部分と合せて使いながら考えていくと、将来的には良いビジネスにつながっていくのかなぁと、強く思いますね。

逆に、自分はコンサルというか投資家という立場なので、そういう会社を見つけて水面下でお世話していくと言うか、協力していくというお付き合いをすることが多いです。

【関連リンク】
サイバーエージェント http://www.cyberagent.co.jp/
インデックス http://www.indexweb.co.jp/

■10年前の慶應と比べて

―隊長が卒業してからもう10年経つ訳ですが慶應が変わったと思う部分はありますか?
実はあんまりそういうのって、感じないですね。「やっぱ慶應だなあ」って言う感じで。

まあ確かに藤沢の人たちは毛色が若干違うなぁ、って思う事も多いですけど。

なんていうのかな。僕自身、僕よりも10年前の卒業生に会う時に、「やっぱり、塾員って変わんないなぁ」みたいな事を言われるんですよね。それと同じ感覚なんだろうと思うんですけど、慶應のカラーって言うのはそう簡単にはかわらないのかなぁ、と。
なんかみんな目敏いし。「目敏い」というか利益に対する感覚が鋭いし。あと慶應同士で会うと商売でつるむし。これなんかね、不思議と行動様式が繋がってる部分があるんですね。見てて面白いなぁと思うし、なんかこれからやって行くにあたって、これからも変わらない資産として生きて行くのかなぁ、っていうのがありますね。

―確かにSFCと三田は毛色が違いますね。
「SFCは、慶應じゃねぇ」っていう人がいますけど、それは分からんでもないと思いますよ。四谷の人が「我々は慶應じゃない」って言っていうのと同じくらいの感じで、「俺たち一緒じゃねぇ」と。まあそういう話ですよ。

なんか、三田とSFCのコミュニケーションって、没交渉に近いですよね。

僕も仕事でよくSFCの出身者と会う訳ですよ。でも互いに慶應の話題がない。三田とか日吉に一緒に通った経験がないし、並木坂とかいっても分かんないし。

ただ、確かに「ああ慶應なんだ。ふーん」で終わっちゃうケースが多いけど、全くシンパシーが無いかというとそんな訳でもなくて。「部外者と言えど慶應は慶應」という話で、「まあ慶應なんだからなんとかしてやるか」とそういう話になったりとか、ありますけどね。

でもSFCのつるみかたは異常ですけどね。SFCはSFCでめちゃめちゃつるんでますよ。

よくソフトバンクとか通信系の会社に逝くと、SFCのOBがいっぱいいるんですよ。で、SFCのOB同士の部署があったりとか。「なに純粋培養しあってんだ、おまえら」って。

でもまあ、いろんな力のあるOBが、社外の人間を使う時の信用担保として、学歴を優先するケースって言うのは非常に多いですよ。

―隊長はブログは出版しないのですか?
いや、あれ出版できないでしょ。まだネットが書籍ほどチェックの対象になってないから書けてるんで。

■隊長から後輩へのメッセージ

―「いい学生」「駄目な学生」とか、こういった学生が伸びるという様なものはありますか? 「大学時代こういう事をやった方がいい」とか。
「駄目な塾生」って別にいないと思うんですよ。人間として駄目、性格的に駄目っていうのはもうどうしようもないんですが、それは義塾とは関係ないですからね。頑張ってつるんでいければ何も問題ないので。そういう意味でいうと、「これがあるからいい」とか「これがあるからダメ」とかは特にないと思ってます。「なるべく専門性があってくれ」とか「人間的な信義を守ってくれ」とか、そういうのはありますけど、それは「慶應だから」って訳じゃなくて、ごく一般論的な話ですね。

「自分が何に役に立つ人間か」っていう部分について真剣に考えて向き合って欲しいと思います。やっぱり、学生時分で考えていた事とは違って、社会に出ると「したい事」と「できる事」の落差っていうのはものすごく鮮明になってくるんです。

ただ、それは自分だけでは気付くことが出来ない事な訳で。お互いがお互いを指摘する事で初めて「これをしたい」「いやでもおまえそれはできねえだろ」っていうのを身につけていく訳ですよ。

そういう意味で言うと「あんたどういう人よ」っていうのを、自分の視点だけではなく、信頼できる友達を大学時代に作って、自分なりに第三者的な検証をしながら深めていって欲しいなあ、というのはありますね。

本当にこう、まあ、ビジネスの現場もぶっちゃけガキみたいなものなので。もちろん専門的な物とか高度な物はあるにしても、それを運用するのは結局人間なんすよね。偉業を達成する優れた人物でも、やっぱり人間の根っこの部分は変わらない。

後は、情報についての感度の高さ。これはその人がどういう生き方をしてきたかっていう所で決まっちゃってる部分で、残念ながら大学に入っちゃってる以上は、その人の情報感度はもう変わらない。なのでむしろ自分の幼少時代にどうだったか、自分がどういう情報感度が高いのかってところに向き合わなきゃいけない。そればっかりはもう変えられないので、まあ、将来っていうか社会人になって10年15年経っていやでも向き合うので、今考えることはない。そういうことですかね。

―学生時代隊長自身がこれをやっとけばよかった、と思う事は?

僕自身のスペシャリティーっていうのは、突き詰めて言うと「数学」と「語学」なんですよ。本当に中学くらいから数学が好きで、大学になっても数学をメインに選んでやってきた、と。で、法学部の政治学科に来ても「政治統計」って言う分野に入っていた。ある意味、今の自分の強さっていうのは、数学と語学っていう二つで全部表現できちゃうと。論理的思考であるとか、ビジネスで使うものは大体、論理学・数学くらいな物で、「統計学」とかもその辺に収まっちゃう。あとは分析力なんかもそうですね。

人間としての方向性がもう出来上がっちゃってる中で、『そこに何を積み上げるか』が大学という時代の有り方なんで。良い友達を作って、互いが互いの問題点を指摘してくれるような関係を、長い時間かけて作っていった方がいいかなー、と。僕の経験で言うと大学時代に培った人脈はいつか再会するんで。その時はお互いがある程度のポジションに来ている訳ですから。その時に花開く様な種撒きを大学時代にしてほしい。

いや、びっくりするくらい再会しますよ。本当に。

―今までで一番驚いた再会は?
まあ、ビジネスで相手が困っている時に、ちょうどその困っている事を、自分自身がスペシャリティーとして持っていた物で、解決してあげられた、と。そのおかげで、その人自身も持ち直して、非常に長い良い関係を築けそうな雰囲気がしてます、って感じですかね。
さっきも言った様に、ビジネスしてる人間も皆子供みたいな物なので、上手く行ったら上手く行ったで恩なんて忘れるもんですからね。人間なんてものは。だからもしかすると将来裏切られることもあるかもしれない。

ビジネスなんて結局人間がやるものなんです。人間が「何を考えて何をするか」って事に収束していくのかなって思いますよ。

後は、自分自身で考える「したい事」と「できる事」ってのには落差があって、この落差をどう埋めていくか。「できることを確実にやっていく」ってプロセスをとっていくのか、リスクをとって「したいこと」をバーンと高くしていくのか。まあそういう事です。

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取材   坪井直紀
吉川英徳
萩原翔一



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