特集 # 52 [10/06/19]

【アーティスト特集】アカデミー賞受賞 「つみきのいえ」作者 加藤久仁生氏

加藤久仁生。アニメーション作家。1977年鹿児島県生まれ。多摩美術大学卒業後、ROBOT入社。短編アニメーション作品「つみきのいえ」で文化庁メディア芸術祭アニメーション部門大賞、アヌシー国際アニメーション映画祭短編作品グランプリ、第81回米国アカデミー賞短編アニメーション賞など数々の賞を受賞。アニメーション作品以外にも、CMやTVで使われるアニメーション、イラストなどの平面作品を世に送り出している。


加藤さんの取材を伺ったのはROBOT本社にて。真摯に言葉を選び話して頂いた様子、雰囲気を皆さんにお伝えします。

こうして取材を受けると、自分はあんまり意思が強い人間じゃなかったなーと思うんです。大学でもアニメーションを仕事にしようとはあんまり考えてなくて・・。ただ、小さい頃から絵を描くのはすごく好きで 、落書きなんかもふんだんにやっていました。

美大生時代を振り返ると、加藤作品のスタイルの原点 が垣間見えます。  

大学は美術系の大学に入り、イラストレーションや絵画や写真を勉強して。そこでシュルレアリスムに一番 興味を魅かれたんです。ダリとかマグリットとか。クリムトはシュルレアリスムとは違うんですけど、フォルムだったり、線だったりっていうのにすごく特徴を持っているのが非常に好きでした。それで、3年になってアニメーションを見る授業があったとき、それまでやっていた自分の絵もアニメーションにしたら面白いのできるかな・・って。自分が作る作品の一つとしてアニメーションがあったんですね。先のことはあまり考えずに、まあ、就職活動もしてなくて「絵を描いて生きていくんだ」みたいな(苦笑)。

ふらふら生きているようで、それでもアニメーションには自信があったはずです。

友達から「ロボットで、アニメーション作家の野村辰寿さんの手伝いを探している」って聞いて。まぁ、プロの現場見るのも勉強になるかなーってくらいの軽い気持ちで行ったんです。そのアルバイトでの自分は、全然使いもんになんなかったんですけど。あーぁ、これじゃもう使ってもらえないなって。だけど野村さんに、学生時代に作っていたアニメーション作品とかイラスト見せたら、割と面白いねってなったんです。野村さんのアシスタントという形から一緒にやることになって、ロボットで作るようになったという流れですね。強い意志があったという訳ではなく、流れに身をまかせてなんかこういう感じになってしまった・・。

一番楽しいのは、やっぱりアニメーションやっている時なのかなって思いました。

趣味といえば自棄酒ばかりしています。飲みすぎて良くないことも多々、あります・・。

ベロベロになるまで飲むことが多いんですけど、朝起きたら枕元に葉っぱが沢山散らばってたとか。これは・・なんだろうって。あと酔ってて自転車乗るのも良くないんですけど、歩道の生け垣に頭から突っ込んだったなぁと。朝起きたらすっごい青痣とか。あぁ、やっぱり自転車でコけたんだったなって思ったり。まぁ、一人で馬鹿やってる感じですね(笑)。いまいち具体的な趣味とか持ってないんですけど・・。旅は行きたいですね。人気のない町に行きたいって結構思っていて。次回作の参考になる場所にも行きたいなと強く思っているんです。ただ肩に力入れて見るとあんまり良くないので、リラックスして行きたいです。で、後になってこれ使えるなって思う方がネタになるんじゃないかと思います。

artistとしての思考の一部を、言葉にして頂けました。

早く次の作品作りたくて、身近な人間、家族だったりというのを掘り下げたものが作りたいなと思いますね。やっぱり人には興味があるんです。ほんと日本だけじゃないですけど、ある意味では生きにくい世の中になってるなって思うんです。人間の生活だったり、生き方にリンクして、人間とか人間が生み出したものに囚われてごちゃごちゃしてる部分が結構多いし・・。テクノロジーは進んでるけど、人間の感覚とかがその後を追っかける形になっている。あの、理論上できるというものは、クローンでもありますよね。倫理的なものはおいといて。そういうことが残酷な部分はあるんですけど、人間は出来ちゃう。「生きる」ってことを考えたときに、問題がすごく大きくなってると思うんです。一方で宇宙的な視点から見れば、人間もその一部でしかないわけで・・。少し見方が変わるだけでも、「人間ってくだらないな」と思うところがあるように感じるんですけど。そういう問題を、作品として描くってこともあると思うんですけど、その前にまずその隣にいる家族だったり、人間だったりとの関係を考えたときに、それだけでも非常に根本的な問題を含んでるし・・。もっとこう、人間の本質的な部分を描きたいなって思うんです。アニメーションですが広い範囲の人に向けて作ろうって感覚があって。子どもに限定して作ろうって感じではないんです。まだ実感が持ててないんですね、子ども向けに作るっていうのが。

オスカー像を獲得するに至るルーツは、大好きなアニメでもありました。

自分は子どもの時は、生意気な感じでした。当時はジャンプの全盛期で、皆が読んでいたんで、最初は拒否してたんですけど。ただ、読むとはまっちゃって、ドラゴンボールとか銀牙とかですね。鳥山明はとにかく絵がうまくて、かなり模写しました。ただ、内容に関しては突っ込み入れながら見る感じでした。作者はやめたいのにやめられない感じが子どもには、伝わってくるんですよね。あと、ジブリ作品っていうのは、ジャンプ突っ込み入れながら見るのとは違う、‘作品’として見てましたね。宮崎駿さんと高畑勲さんの二人の作品は、ある種特別な意味合いを持って見てた。最初見たのがラピュタ。このシーンが良いっていうのを言ったらキリがないんですけど。北の塔でシータを助けに行くパズー。あの名場面ですね。あとディズニーのピノキオとかダンボとか。割と古き良きディズニーですかね。テレビアニメに慣れてると波が画面全体でネチネチ動いてる感じとか、なんか変な気持ちよさ。ただ、そういうのを友達に話しても、あんまり共感してくれなかったなって。ちょっとアニメーター的な見方をしてたのかなと、こう語ると気付きます。あっ、共感してくれなかったのは、そういうことだったのかって今分かりますね(笑)。

「つみきのいえ」は愛の物語という意味合いが強いのでは、と私から話をふると・・

こういうことが言いたかったと一言では言えないことで・・。取材なんか受けると適当に誤魔化すんですけど。一つはおじいさんのおばあさんへの気持ちもあるんです。ただ、非常に良い面、美しい記憶で描いてますけど、それはおじいさんの一方的な気持ちでしかなかったりする。娘の立場になると、一緒に住まないかってことを言っているかもしれない。あんな危なっかしいところに一人で住んでしまっている。ま、頑固だし、よその人からすると迷惑だったりして。だから、本当は美しい物語で済ませてはいけないことだったりして・・。そこは結局こちらが描ききれなかった訳ですけど。ただ、そういう真っ直ぐな部分があるからこそ、人は共感する部分があると思うんです。難しいとこなんです、バランスとして。ただ、作品は分かんないとこがあっても、ちゃんと見た人が楽しめるようにしたいなって想いはありますね。

慶應生への言葉を、1時間の取材の終わりにお願いしました。

自分は出来の悪い人間だったんで、何も言えることはないんですけど(笑)。そうですね、学生のときは、いろんなことを経験するのが良いと思うんです。いろいろ経験するのが非常に大事なことなんだっていうのは、若い頃は「分かってるよ」って感覚ですけど。30歳になって分かることもありますし、いろんなことの積み重ねですから。いっぱい悩んでください。頭のなかで分かってるという感覚と、経験なり考えたりってこととの差は大きいので。あんまり頭でっかちになんないで、失敗しても良いし経験してほしいなって思います。人生に後悔は付き物ですから。

株式会社ロボット 東京都渋谷区恵比寿南3-9-7

URL:http://www.robot.co.jp/index.html

取材:工藤大貴、岡本浩幸、井川裕太